この「連続ドラマW 1972 渚の螢火 インタビュー」ページは「連続ドラマW 1972 渚の螢火」のインタビュー記事を掲載しています。
10月19日スタートのWOWOWのドラマ「連続ドラマW 1972 渚の螢火」(日曜午後10時)で主演を務める俳優の高橋一生さん。1972年の沖縄を舞台に繰り広げられるクライムサスペンスで、高橋さんが演じるのは、現金輸送車が襲撃され100万ドルが強奪された事件を追う特別対策室の班長・真栄田太一。高橋さんに役作りや作品への思いを聞いた。
◇スタッフの方々が“最初のお客さん”
ドラマは、第23回大藪春彦賞を受賞、第164回直木三十五賞候補にもなった「インビジブル」などで知られる坂上泉さんの小説「渚の螢火」(双葉文庫)が原作。1972年、本土復帰に際し、円ドル交換が進む沖縄で、ドル札を回収していた現金輸送車が襲われ100万ドルが強奪される。この件が日本政府や米国政府に知られると、重大な外交問題に発展しかねないと懸念した琉球警察は、秘密裏に解決するため、真栄田太一(高橋さん)を班長とする特別対策室を編成。復帰まで18日しかない中、真栄田たちは事件解決に奔走。強奪事件は地元ギャングの犯行と目されたが、その背後には米軍関係者の存在が……というストーリー。
オファーを受けたときの心境を、高橋さんは「実際に起きたことが背景に存在しているので、その部分はかなり慎重に扱う必要があると思いました。どう芝居をしていくかは慎重に出力を考えないといけないと思いながらお受けしました」と語る。
実話をベースにした本作について「戦中戦後を扱ったものはあっても、あまりこの年代の話は描かれたことがない印象ですし、自分が携わったことも出演したこともありませんでした」と印象を口にし、「俳優は疑似体験していける職業なので、1972年の背景に入ってみて自分がどういうことを感じるかは楽しみにしていました」と期待感があったと明かす。
では、演じた結果どう感じたのだろうか?
「真栄田のようなキャラクターは魅力的だなと感じました。多くを説明せず、多くの感情が表に出てくることもなく、物事に対峙したときに初めてその人の本質が見えてくるような役は、すぐできそうな感じがして実は想像より難しい。いろんなものが過多になってしまい、『芝居って結局何なんだろう』と悩んでしまうようなことも多い。そういった意味では芝居のしがいがある役や作品でした」
充実感に満ちた撮影となったと話す高橋さん。役作りで意識したことを聞くと、「どの作品においてもそうなのですが、自分勝手に(役の)設計図を作ることはしないようにしています」と語り、その理由を「(作品や役は)会話を重ねながらチームの皆さんと作っていくもの」と説明する。
「例えば真栄田太一を演じた際もそうですが、芝居に対してスタッフの方々から返ってくる反応が“最初のお客さん”だと思っています。その“返り”を大切にしながら常にどの現場にも入っています。俳優が作っている感覚よりも、チームみんなで作っている感覚が強いですね」
今作を手がけた平山秀幸監督とは「よい子と遊ぼう」「連続ドラマW ヒトリシズカ」に続き3度目のタッグとなったが、高橋さんは平山監督を「頑固だなって(笑)」と冗談交じりに評しつつ、「歴史的な背景が入っている作品の中において、平山さんのあり方が僕にとってはすごくありがたかった」と感謝と信頼を口にする。
「平山さんの信念や作ろうとしているものがある中で、僕ら俳優部がいる以上はドキュメントではなくフィクションであり、娯楽にならないと意味がない。ドラマとして、本作を娯楽の作品として、どう昇華していくか、平山さんもきっと常に悩まれていたと思います。監督ですから、一つの世界観を提示するのに頑固さやそのぐらいの気概が必要なのではと、僕は思っています」
◇アイデンティティーは「他者が決めるもの」
自身が演じた琉球警察の刑事・真栄田太一と近いところを聞くと、高橋さんは「何を考えているかわからないと評されるところかな」と言って笑う。
「僕としては出しているつもりだけど、わからないと言ってくる人たちが意外と周りに多くて。そこは真栄田も思われていたところなのでは。本人としては割とわかりやすいことをやっているつもりなのに、何を考えているかわからないなという人が多いところは似ているのかもしれません」
周囲からの評価に対して高橋さんは「最近ちょっと自覚的になってきました。そういえば前から言われていたなって」と苦笑いを浮かべるも、「そんなのは芝居以外どうでもいいなと。僕個人をそう評されるのは全然OKで、芝居でそう見られていないならいいかなと思います」とほほ笑みながらも自身の信念を口にする。
真栄田はアイデンティティーを常に問い続けている人物だが、高橋さんは“自分らしさ”について、「僕はこういうときはこう思っているというのは一貫しています。ただ基本的にアイデンティティーは他者が決めるものだと思っています。だから他者からの見え方によるのでは」と持論を語る。
「僕自身はその時その時で起こる事象や物事に対して一貫して通しているだけで、それを分析して『自分のこれはこうです』と定義したことはないかもしれない。『自分はこういう人間』と決めつけてしまうほど寂しいことはない気がして。それでも一貫しているものは絶対あるし、それに対してはあまり深く考えないようにしています」
最後にドラマの見どころについて、「特別対策室の面々のキャラクターが全く違っていて、見え方の違いとか受け取り方の違いが対策室の人たちだけでも変わるので、それは面白がって見てもらえる要素の一つ」と話し、「誰に感情移入して見るかを考えてもらうと面白いかもしれません」と呼びかけた。
「連続ドラマW 1972 渚の螢火」は全5話で、WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドで放送・配信。第1話は無料放送される。(取材・文・撮影:遠藤政樹)
ヘアメイク:田中真維(MARVEE) スタイリスト:小林新(UM)